文化人類学についての基礎知識

文化人類学って聞いたことがあるだろうか。何を隠そう私が大学院で2年間学んできた分野である。あまり真面目な学生ではなかったが、文化人類学の考え方には惹かれるものがあった(だから学部生の時心理学徒だったのに鞍替えしたのだ!)。

とはいえ1年ほど文化人類学から離れると、少しずつ文化人類学の知識が炭酸の泡のように消えていく気がしてならない。それなので院生時代の教科書を参考にしつつ、再び文化人類学について学んでいこうと思う。

文化人類学の語源

文化人類学の関心の範囲は広いものである。アフリカの部族から腐女子文化まで様々である。実にテーマが多様なので、果たして文化人類学という学問領域は何をしたいのか わからなくなるときもある。

こういうときは語源を調べるというのが鉄板なようである。というわけで文化人類学の英語訳「cultural anthropology」の語源を調べてみよう。

まず「anthropology」である。「anthropology」は「anthropos」と「logos」という2つの古代ギリシャ語からできているそうだ。前者は人間、後者は知識という意味である。つまり「anthropology」は「人間の知識」というわけである。

「culture」はラテン語の「colere」を由来としており、耕すという意味である。余談だが植民地という意味の「colony」も同じ由来だそうだ。

というわけで「cultural anthropology」というと「耕す人間についての知識」というわけになる。

文化とは

語源的に「文化」と「耕す」という行為は近いものなわけだが、それはどういう意味なのか。耕すとは土地を人間の活用のために手を加える行為である。つまり自然・所与のものでなく、自ら獲得したものだという意味がある。この点で「文化」とは人間が作り上げてきた様々な所産という意味がある。

では文化人類学を築き上げてきた偉い人々は「文化」をどう定義しているのか。例えばエドワード・タイラーは、

文化、または文明とは、広い民族誌的観点からいえば、知識、信念、芸術、道徳、法、習俗、その他人間が社会の一員として獲得したすべての能力と修正を含む一つの複雑な全体のことである。

渥美一弥『「共感」へのアプローチ 文化人類学の第一歩』

クリフォード・ギアツは、

文化は人間が自ら紡ぎだした網の目であり、人間はその網の目に支えられた動物である。

同上

などと定義している。要するに文化人類学において文化という概念の定義は一定していない。とはいえ文化人類学が人間が作り上げてきたものを対象にしているのは確かである。

 

文化人類学のイメージ

というわけで「文化」を研究対象とする文化人類学であるが、実はその方法に特徴があると言われる。あまり踏み込んで説明するのは別の記事に譲るとして、ここではイメージをお伝えしたい。

・データを集める方法はフィールドワークである。しかも数年間にわたる長期間のものである。

(参考)

way-tom.hatenablog.com

・調査地域はいわゆる工業化された地域ではなく、非工業化地域が多い。

授業で有名な文化人類学者の調査の様子を収めた動画を見たが、彼は調査している部族に合わせて主に上裸で過ごしていた。そして部族の人々に自らの関心について尋ね、つぶさに記録していた。

現代に近づくにあたり調査地域に工業化された地域(日本とか)が選ばれることも増え、事情は変わっている。フィールドワークも短時間化しているという。ただいわゆる「文化人類学者」とはこのようなイメージの人々なのではないか。

文化人類学の目的

ではその「文化」を研究して、文化人類学者は何をしたいのか。人類普遍の法則を見つけたいのか、それとも個々の文化の独自性を描き出したいのか。答えは両方である。

文化人類学者はその文化の独自性を理解しなければならない。何で牛がお金の代わりになっているのか、なぜ他人の首を狩らなければならないのか。きっとそれにはそれなりの理由、彼らなりの論理があるはずである。文化人類学者はその論理の解釈を試みる。

その上で文化人類学者は上記のような理解不可能な慣習・行動が発生する理由というのを、我々に理解可能な形で提示しようと試みる。彼らの行動は理解できなかったとしてもその根本にある感情だったり動機というのは理解ができるものだったりする。そういった意味で文化人類学者は人類普遍の共通点を希求し続ける人たちでもあるのだ。

 

というわけである。文化人類学のざっくりとしたイメージは伝わっただろうか。文化人類学は変わり続ける学問であるので、人によって意見が異なる。とりあえず私の考えとしてまとめてみた。

この記事については定期的にリバイスしていきたい。

 

参考

渥美一弥『「共感」へのアプローチ 文化人類学の第一歩』

Thomas Hylland Eriksen『Small Places, Large Issues』